白夜奴隷 -プロローグ-

『金魚は人に愛でられるため存在する魚である。
もとは水の都・杭州こうしゅうのとある池にて発見されたフナに似た魚であったが、それは自然の鮒にない金の絢爛豪華な鱗を有していた。緑の池の中に舞うその美しき鱗は一目で見た者を虜にし、人々はこれを"生ける金"と讃え天子の前に差し出した。天子は最初こそ噂に疑惑を持ったが、その優美な姿を見るなり心奪われすぐ宮廷で飼うようにと命じた。
天子の命により国の特権階級に飼育されることとなった金魚は、天子の美意識にかなうようより美しく、より麗しい姿へと、人の手を借りて進化していった。
そして今や金魚は我が国を代表する魚として階級の差なく全国民に愛されている。この歴史から分かるように、金魚とは人に愛でられ人の手で生かされるべき魚なのである。是すなわち、"愛玩魚"と呼ぶに相応しい命である。――……』

一通り読み終えて、男はふぅと息をついた。

『満足かい?』

その凛とした、それでいて柔らかい絹のような美しい声は、いつも私の心に安らぎを与えてくれる。

『……まだよ。もっと読んで。もっとお前の声が聞きたいの』

甘えるように膝に頬をすりつけると、男はその細い指で撫でるように私の髪を梳いた。
……その滑らかな指の動きについ先刻の行為を思い出し、また胸の奥が熱くなる。

『それならもっと別の本にしよう。こんな学術本ばかり読んだところで楽しくもなんともないだろう』

『……いいの。私はただ真実を語るお前の声が聞きたいのよ。だから早く続きを読んで……』

『………………。
……公主様のお望みとあれば』

男は嘲笑気味に呟いて、再び本に目を落とした。

続きの一文はこうだ。

『時にこの"愛玩魚"とは、"愛玩奴隷"を意味することもある』――……

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